宮沢賢治作品ほど長い間たくさんの子どもたちに親しまれてきた童話は日本にはなかなかありません。たとえば『どんぐりと山猫』、お父さんやお母さんやおじいさんやおばあさんも、子どもの時に読んだり聴いたりしてワクワクやドキドキを体験しました。もしかするとお母さんは芸術鑑賞会で『どんぐりと山猫』を観たかもしれません。世代を超えて愛されるものが少なくなっている現代、とても貴重な作品ではないでしょうか。
 なぜこれほど長い間、賢治童話は愛されてきたのでしょう。それは、物語の主人公が不思議の国で冒険するという童話の王道的手法を用いていること、また、自然界のみならず世の中に存在する全てのモノに息吹きを与えた感性、そしてなにより、みんなに幸せになって欲しいという賢治の魂の求めが日本の子どものみならず、世界中で愛読されている一因ではないでしょうか。さらに賢治童話の中で表現されている現象が学問に裏付けされているのも魅力のひとつです。彼は植物学や地質学、生物学、天文学、農学、音楽とありとあらゆる学問に精通していました。そして学問と幻想が融合した物語をたくさん書きました。『楢ノ木大学士の野宿』などはその最たるものです。
 賢治童話はこれからも子どもたちをワクワクドキドキの不思議な世界に誘ってくれることでしょう。もしかしたら、子どもたちがお父さんやお母さんになったとき、そのまた子どもたちも『どんぐりと山猫』を観るかもしれません。そんなときはきっと、未来のお父さんお母さんも子どもの頃に戻ってワクワクドキドキを一緒に語り合うことでしょう。
 賢治の童話劇はそんな作品です。賢治の小さな物語の幾きれかが、おしまいに、皆さんの透きとおった本当の食べ物になることを、わたくしたちは願っています。
スタジオ・ポラーノ代表 八木澤 賢