新式の稲扱器械を六台も据えつけている大農場の経営者オツベルの 仕事場に、白象のタネリがやってきました。どういうわけで来たかっ て? それは象のことですから、たぶんぶらっと森を出て、ただなに となく来たのでしょう。オツベルは少しぎょっとしましたが、タネリ があんまりおもしろそうに仕事場を歩いているので、こんなことを言 ってみました。
「ずうっとこっちにいたらどうだい。」
するとタネリは答えました。
「居てもいいよ。」
 どうでしょう、この白象は、もうオツベルの財産です。働かせるか、 サーカス団に売りとばすか。さあ、タネリの運命やいかに。
 「オツベルと象」は賢治のほかの作品と比べて文体が少し特徴的です。
 「白い象だぜ、ペンキを塗ったのではないぜ。」とか、「なぜぎょっとした? よくきくねえ、何をしだすか知れないじゃないか。」とか、牛 飼いの語り口という設定だからでしょうか、なんとなく粗野で、賢治のほかの作品の優しい文体とは受ける印象が違います。しかもリズミカルで、読んでいると気持ちがワクワクしてきます。
 今回、「オツベルと象」 を舞台化するに当たっては、そんな語り口も大切にしたいという思いから、原文をそのままにいくつかの場面にオリジナルのメロディーをつけてみました。ちょっとしたオペレッタ風に仕上がっていますので、是非ご一緒にリズムをとりながらご覧ください。

演出 八木澤 賢
栃木県出身。劇団東演に在籍後、主宰劇団を設立し、賢治童話など30本以上の作品の演出を手掛ける。2012年、劇団なすの・那須塩原市・那須塩原市教育委員会主催『那須野の大地』演出。東京芸術座、かわせみ座、らくりん座などの学校公演や「次代を担う子どもの文化芸術体験事業(巡回公演事業)」(文化庁主催)に参加。

脚色 澤藤 桂
岩手県出身。2004年に処女作『蔵』で劇作家協会新人戯曲賞最終候補に選ばれる。2006年に『川竹の流れ流れて、あゝゴールデン浴場』でテアトロ新人戯曲賞佳作を受賞。2009年金ヶ崎町第一回町民劇場『千貫文の娘』の脚本を担当。日本演出者協会会員。

作曲・編曲 阿部 明子
山口県出身。大学で音楽教育を学ぶ。 知的障害者施設に勤務後、専門学校で音楽療法やピアノ伴奏法を学ぶ。2011年、朗読劇『楢ノ木大学士の野宿』で宮沢賢治作詞作曲の音楽をアレンジ、演奏。現在、国立音楽院ピアノ伴奏助手。川口シティオペラ合唱団所属。